農薬も化学肥料も使わない栽培は不可能ではありません。但し「どんな条件の土地でも」「どんな野菜でも」となると、かなり難しくなります。
「健康に育てれば虫も病気も寄りつかない。」果たして本当にそうでしょうか?健康に育った人間は、伝染病にかからないでしょうか?イモムシが集る食べ物は不健康なものだけでしょうか?病気や害虫に対する防除は無農薬でも必要です。防虫ネットや施設により物理的に防除できる場合もありますが、これができない場合は薬剤の力を借ります。
「無農薬」の場合は農薬でない薬剤、つまり安全性を検査されていない薬剤を使用する可能性があります。これでは農薬では禁止されている毒物が混入する危険性が高まります。
最近では、ニームオイルへの強毒性分アバメクチンの混入。木酢液では発がん性物質であるタール、ベンツピレンに関する問題が指摘されています。危険性への公的な検証が行われていない、病害虫防除に効果があるとうたっている農業資材は、リスクが高いと考えられます。
危険性・効用を検査したものは、自然由来であっても農薬と呼ばれます。「農薬=危険」という固定観念が、逆により危険な作物を育てる恐れがあるのです。
農薬・化学肥料を使わないことを第3者が認証した有機JAS栽培においては、使われる資材にもチェックが入りますから、危険な毒物が使われるリスクはまず無くなります。有機JAS認証を受けた野菜に関しては、ここまでで述べた危険性は関係ありません。
しかし、「無農薬」をうたう生産者は基本的にはノーチェックです。そして、その生産者が良かれと思い使う防除資材も危険性はノーチェックなのです。
「無農薬=安心」というイメージが広がる一方で、危険な栽培をなされた自称無農薬野菜が増えてゆくことに、生産者としては強い危機感があります。
今後「無農薬野菜」による健康被害が出た場合、「農薬=危険」というイメージを持っている一般消費者が、全ての野菜と生産者に不信と疑惑を持つことは、容易に想像できます。
誤解が無いよう申し上げますが、全ての無農薬野菜が毒まみれだと言っているわけではありません。ただ、誰も使用資材の安全性を担保しない自称無農薬栽培は、大きなリスクが存在することを申し上げているのです。
実際、非農薬で防虫・病気防除効果をうたう資材の解説内容には、かなり疑わしい文言が並ぶものも多いです。農「薬」として安全性の検証を行った資材を適正に使った防除の方が、「安心・安全」ではないでしょうか。
「農薬」と一言でくくられますが、その特性には「毒物」「劇物」から、「普通物」とよばれるものまで、大きな幅があります。そして、その使用法は厳密に規定されているのです。その全てが危険だとすると、逆に安全性は誰にも証明できません。
「農薬=危険」「化学肥料=危険」というイメージの弊害が、現実の被害にならないことを切に願います。その為には、農薬や化学肥料の危険性を妄言であおる方には、なるべく説明するつもりです。安全性はただのおまじないではありません。事実の裏付けが絶対に必要です。
栽培に必要なのは、その作物にとって「いい塩梅」な環境を作ってあげることです。
言葉のわかりやすさに捕らわれて、本当に大切なことを見逃してはいけないと私たちは考えます。